松山簡易裁判所 事件番号不詳 判決
主文
被告人を罰金参千円に処する。
右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は株式会社渡〓商店所有の機帆船第五清澄丸(総噸数一九・五五噸、機関八〇馬力)の船長として大阪と松山、博多、高知等の間をガソリンの輸送に従事していた者であるが、昭和二十九年四月一日午前四時五十分頃右清澄丸を操縦して松山市三津浜港に入港しようとして同港内の港山と三津須先間の渡船発着場を結ぶ線から西方約八十メートル位のところで機関を停止し時速約一浬乃至一浬半の惰力で東進していたが機関停止後約五十メートル進んだ頃、同船の左舷前方(東北方)約三十メートルのところに被告人嶋矢文次郎の操縦する櫓漕漁船幸丸(船長六・四メートル)が被告人の船の航路前面と略直角に南に向つて接近して来るのを認めた。ところで被告人の船は喚気信号の設備もなく又吃水が深いため後進は稍々困難な船であるからこのような場合船長としては、そのことや相手船との距離等をよく考えて直ちに全速力後退をかけるか或は左操舵を採りもつて右幸丸との衝突等の事故発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるものというべきである。しかるに被告人はこれを怠り右幸丸において一旦停止して自分の船に航路を譲つてくれるものとのみ軽信し唯「危いぞ」と叫び声をあげて幸丸に注意を与えただけでそのまま東進し同船との距離約十メートルの極めて近くまで接近したときはじめて危険を感じ全速力後退をかけるとともに左操舵の措置を採つたが時すでに遅く前記三津須先渡船場の北方約十メートルの海面で右幸丸の右舷中央より稍々後方に清澄丸の船首を衝突させ因つて幸丸を転覆させるとともに同船の乗客北野シゲ子(当時四十三才)を附近海中においてその頃溺死するに至らしめたものである。
(証拠)
一 北野志登喜の海上保安官に対する供述調書
一 山崎ナミ子、小西タケ、村上光義の海上保安官及び検察官に対する各供述調書
一 宮地範夫、筑地庸、多森登志郎の海上保安官に対する各供述調書
一 海上保安官作成の各実況見分調書
一 被告人嶋矢文次郎の当公廷の供述
一 右被告人嶋矢文次郎の海上保安官及び検察官に対する各供述調書
一 被告人の当公廷の供述
一 被告人の海上保安官及び検察官に対する各供述調書
(法令の適用)
刑法第二百十一条前段、罰金等臨時措置法第二条、第三条
刑法第二百十九条第二項、第一項、罰金等臨時措置法第二条、第三条、刑法第五十四条第一項前段、第十条、第十八条
(昭和三〇年五月三〇日松山簡易裁判所)